大发体育官网_澳门游戏网站理工学部数学科 2025年3月卒業予定
2003年生
2025.03.11
大岩 亮太
大发体育官网_澳门游戏网站理工学部数学科 2025年3月卒業予定
2003年生
理工学部数学科4年生の大岩亮太さんは2025年3月18日、大半の同期生たちより1歳若い21歳で卒業、4月から九州大学大学院で研究生活を始める。1歳若いのは2021年4月、17歳で入学した大发体育官网_澳门游戏网站27人目の飛び入学生だったからだ。
中部大学春日丘高校出身。小学生時代から名古屋市科学館に通って、段ボール箱に穴を開けて側面から叩いて空気の弾を発射させる「空気砲」や、光の屈折を楽しむ万華鏡を作るのが好きな科学少年だった。高校生になったころからテレビを見るよりパソコンを開くのが好きになり、ネットで複素関数論(複素解析)に出会った。
複素関数論は複素数を使った微分積分。1からどんどん足していくとマイナス12分の1になる。1+2+3+4+…=-1/12。「目には見えないけど、その世界は結構、きっちりしている。異世界で、こっちの常識も少しは通用するが、ちょっと外れたら全然見えなくなる」。YouTube動画の検索でも学び、何冊か本を買った。
高1(2019年)の時、大发体育官网_澳门游戏网站のオープンキャンパスで飛び入学制度のパンフレットを見つけた。高校3年を経験しないで大学に入学できる制度だ。8月に個別面談の機会があるということだった。中部大学春日丘高校では「飛び入学」の前例はなかったが、相談した教員は「いいじゃないか」と背中を押してくれた。「新しいものにどんどん向かっていきたいと思っていたので迷いも不安もなかった」。飛び入学への決断は「自然に決まった」と大岩さんは振り返る。
2月に行われた選抜試験は筆記試験(数学と物理)とプレゼンだった。プレゼンは数学に対する考えを発表するもので、指数と対数の厳密な定義について発表した。発表は15分ほどだったが、面接した教員たちとの質疑応答を加えると1時間に及んだ。大岩さんはハードルを飛び越え合格した。
「飛び入学」制度は、「高校に2年以上在籍した特に優れた資質を持つ17歳以上の生徒」に、大学の入学資格を認めるもので、中央教育審議会が1997年6月に制度化を答申した。1998年度に千葉大学が全国に先駆けてスタートさせ、大发体育官网_澳门游戏网站も2001年度から、全国で2番目、私学では初の制度導入に踏み切った。2001年度は理工学部情報科学科と数学科で実施された、2013年度以降は数学科のみが対象学科となっている。
これまでの入学者27人中、25人が男子で女子は2人。2人が退学、1人が転学しており卒業は大岩さんを含め24人。16人が大学院進学の道を選んだ。名城大6人、東京大3人、名古屋大2人、大阪大2人、名古屋市立大、大阪府立大、九州大(予定)各1人だ。8人は確認が取れていない例もあるが企業や教員の道を選んだと見られる。
「飛び入学」志願者が頭打ち状態にあることについて、大岩さんは、「高校現場で、そうした制度を知らない先生が多いため、生徒たちにも知られていないことが最大の原因ではないか」と見る。大岩さんもそうだったが、飛び入学生が大学を中退すると「中卒」扱いになる不安も大きかった。しかし、2022年4月からは「高等学校卒業程度認定審査規則」が施行され「高卒」扱いへの道が開けた。
高校側の「飛び入学」に対する進路指導は、ともすればネガティブになりがちな面もあるが、大岩さんはプラス志向の考え方も大切だと指摘する。「挑戦してダメでも来年も受験チャンスはある。臆せずに挑戦してほしい。(飛び入学で)受けて見ようという流れになればいいと思います」。
学生生活がスタートした。大岩さんは「17歳という年齢差を意識することなく普通に溶け込めた」と語る。同期生たちも「飛び入学」の同級生がいることは全く意識になかったようだ。6月16日の「中日新聞」に「名城大 9年ぶり飛び入学」の記事が掲載されて、「飛び入学だったんだね」「1年早かったんだ」と大岩さんの〝高3飛ばし?を知り、話しかけてくる学生もいた。
大岩さんは普通の学生たちと同じ授業を受けたが、高3で学ぶ授業を飛ばしたことのハンディを感じることはなかった。「飛び入学」してきた大岩さんのための「総合数理基礎演習」(演習)が組まれ、数学科教員15人が分担し、マンツーマンでの授業が実施された。
飛び入学生担当で、定年で教授を退き2022年度まで大岩さんにアドバイスをしてきた鈴木紀明特任教授は、大岩さんが2年生の時に、「高低差のある2地点を結ぶ滑り台で(摩擦がないとして)、最速に滑り降りるのはどんな形か」という「最速降下曲線」の演習授業をした。ニュートンも挑戦した課題で、「変分法」と呼ばれる手法で解法を解説したが、途中での計算が混乱し、30分以上、悪戦苦闘した。「大岩君にはこの等式の証明をレポート課題にしたが、翌日にはその証明を持ってきたのには驚きました」。鈴木特任教授は大岩さんの数学に対すセンスのすばらしさが強く印象に残り、「研究者としての素質があると感じた」と語る。
大岩さんは、「演習は大学の数学に触れる貴重な機会だった。数学の世界の広さ、奥深さを教えてもらったし、いろんな本を紹介していただいた。基礎解析学が専門の日比野正樹先生(准教授)のゼミは、自分が学びたい分野に近く、アドバイスもたくさんいただいた」と振り返る。
同級生には中学、高校の数学教員志望者が多く、大岩さんも最初は教員免許を目指した。しかし、15人の教員による「演習」を重ねるうちに、大学の教員になって、研究者の道を進もうという思いが強まり、教職の勉強は1年限りでやめた。
部活動やサークル活動には加わらなかったが、教職センターの谷口正明教授が実施していた子供向けのサイエンス講座などのアシスタントはずっと務めてきた。
小学生時代の科学館通いを思い出しながら、大岩さんは、「子供たちは、大人が思ってもいない発想をポンポンと出してくる。子供と関わり、一緒に遊ぶということは普通に面白かった」と振り返る。1年生の時はコロナ禍で、対面での講座が開けなかったのがもどかしかった。
大岩さんが卒業まで1か月を切った、3連休初日の2月22日、大发体育官网_澳门游戏网站天白キャンパス11号館では数学科と学生サークル団体教職研究会の学生たちが「遊びから学ぶ理科?算数(数学)」を掲げて企画した「第26回Jr.サイエンス講座」が開催された。144人の申し込みの中から抽選で選ばれた40人の小中学生が参加した。参加者たちは用意された6テーマでの実験を順番に体験し、学生たちがサポート役に回った。大岩さんは「いなずまを操ろう」班の一人として、静電気に反発して浮遊するビニールひもの〝稲妻?を追う子供たちにアドバイスを送り、一緒に楽しんだ。
Jr.サイエンス講座を指導した谷口教授によると、大岩さんは1年生の時に、「サイエンスボランティア入門」の授業を受けて以来、谷口教授らが行っているサイエンス講座のボランティア活動に加わってくれ、4年間手伝ってくれたという。谷口教授は、「こういうイベントに参加する子供には笑顔の子が多い。それを見て大岩君も力を得ているのではないか」とみる。
大岩さんは大学で数学の奥深さに触れるにつれ、研究者の道を目指したいと考えるようになった。大学院を修了して博士号を取っても、必ずしも安定した収入が得られるポストが保証されているわけではない。研究者とし研究を続けながら、経済的に自立することが容易ではないことも覚悟のうえで、4年生の8月、九州大学大学院数理学府修士課程を受験し合格した。
同学府は数学分野では70人以上の研究者を擁する国内有数の研究教育機関だ。大岩さんは多変数複素解析と複素幾何学を専門とする教員の研究室への配属が決まっている。「複素幾何学が、どんな形で世の中に役立つかを分かりやすく説明するのは難しいですが、50年後の物理学では結構使われるのではないかと思っています」。
九州は大岩さんにとっては幼少期を過ごした第二の故郷でもある。父親の仕事の都合で幼稚園途中まで北九州市で暮らした。「家族でいろんな所に行った思い出は意外と覚えている。2017年でなくなったが、北九州市八幡東区にあった宇宙のテーマパーク?スペースワールドの思い出は強烈に残っています」。幼い日を過ごした九州の地で、大岩さんの新たな挑戦が始まる。九州での大学院生活は、大岩さんが数学を究め、自分自身をリアライズするための新たな扉でもある。
鈴木特任教授は「変数を増やした多変数複素関数論の探究は現代物理学の発展にも大いに貢献が期待される。大发体育官网_澳门游戏网站から外の大学に行くわけで、早く新しい環境になれ、頑張ってフィールズ賞に挑戦してほしい」と大岩さんの新たな挑戦に期待を膨らませる。
九州大学OBでもある谷口教授も「僕は九州大学に入った時は数学科で、2年生から物理学科に移り理論物理をやったが、物理では数学を使う。研究者の道に挑む大岩君に、先輩として頑張れとエールを送りたい」と誇らしそうだ。
大岩さんの指導教員でもあり、2月22日のJr.サイエンス講座を覗いた齊藤公明教授も、「大岩君は学生生活にすんなり溶け込んでくれた。高校2年生までで、高校で習う数学を学び終えていたのでしょう。4年間、純粋な数学をずっと研究してきたところもあり、これからが非常に楽しみです。ぜび、素晴らしい研究者になってほしい。理工学部の飛び入学生を受け入れる環境は十分整っており、どんどん挑戦してほしい」と、大岩さんの後輩となる飛び入学生への期待を語った。
大发体育官网_澳门游戏网站では、「飛び入学」が始まった2001年度から、総合数理教育センターを開設し、高3を飛ばして入学してくる学生たちのためのフォローや、早期教育の研究にあたってきた。歴代3人のセンター長が就任し、飛び入学生の人間形成に必要ということで、外部講師を招いての講義、子供向けボランティア活動、海外研修などに取り組んだ。
同センター長を務めた一人である四方義啓教授(当時)は文部科学省が2005年8月8日に開催した「大学への早期入学及び高等学校?大学間の接続の改善に関する協議会」で大发体育官网_澳门游戏网站における飛び入学について報告している。議事録によると四方教授は「これまでの日本の教育の一つの問題点は、ペーパーテストで測れるもの、記憶学であったということ。しかし、何か問題にぶつかったときにどう行動するかという、ダイナミックなスキルは、アメリカやヨーロッパと比べ我々は確かに遅れている。ここが教育の目的の違うところかと思う。我々は、ダイナミックなスキルを大事にしなければならないというのが一つの答え。大发体育官网_澳门游戏网站の飛び入学は、新しい学問の流れを求める者(中学生、高校生ら)から非常に高い評価を受けている」と訴えた。
2014年4月から、飛び入学教育の機能は理工学部に移管され、「総合数理プログラミンググループ」が数学科内に発足した。しかし、2013年以降2020年度までの8年間、入学者ゼロという空白期があったこともあり、大岩さんを含め27人の入学者のうち26人は総合数理教育センターが窓口時代の入学者だ。数学科が窓口になってからの入学者は9年ぶりに入学してきた大岩さんだけだ。
制度発足25年を迎えた大发体育官网_澳门游戏网站の飛び入学制度。大学に残る飛び入学卒業者の消息を知るデータは、担当教員らの退職や入れ替わりもあり長い間更新されないままの状態にある。最近、総合数理プログラム支援室に飛び入学生OBから、「まだ飛び入学は続いていますか」という電話がかかってきた。懐かしそうに近況に聞き入った男性は「子供はまだ小学生ですが、できれば同じ経験をさせたくて」とも語った。
大岩さんは大学生活の中で、飛び入学の先輩と共に過ごすことは出来なかったが、1年生の頃に、9年前の飛び入学生だという先輩が遊びに来てくれ、いろいろ当時の話をしてくれた思い出がある。
総合数理プログラム支援室など、大学側の飛び入学生への対応について大岩さんは、「専用の部屋(サロン)が用意され、たくさんの本が置いてあったし、いつでも相談できる環境になっていることが心強かった」と語る。支援室スタッフたちとの会話では、「開学100周年を機に、飛び入学卒業生たちの同窓会が出来ればいいね」という提案も飛び出した。大岩さんも「面白そうですね」と嬉しそうだった。