特設サイト第4回 梅雨と湿邪
ここ数日、梅雨前線と台風8号の影響で、高温多湿な日々が続きました。
みなさん、体調管理に苦慮されたことと存じます。
漢方医学では、中国古代の自然科学思想を基に、疾病の成因やその治療法、中心となる生薬、そして処方を考えます。
まず、私たちを取り巻く環境や自然界すべてを「大宇宙」とし、また私たちの人体そのものを「小宇宙」として捉え、相互に影響し合うものと考えます。
自然界に存在するエネルギーを、漢方医学や中国伝統医学では六つの気(六気)と呼び、それぞれ「風」「暑」「寒」「火」「燥」「湿」と称します。これらが私たちの健康に悪影響を及ぼすとなると「六淫」と呼び名も変わり、病気の原因と考えられます。それぞれ、「風邪」「暑邪」「寒邪」「火邪」「燥邪」「湿邪」という「外邪」となり私たちを襲うのです。
このところ気温が高まることも多く、真夏など35℃を超えることもめずらしくなくなってきました。外気温の高さにより体温が上昇し、コントロールできなくなって熱中症になることは皆さんもご存じでしょう。これが「暑邪」により、身体の中に熱(内熱)がたまった状態なのです。
つまり、自然という「大宇宙」に、私たちの身体の中の「小宇宙」が反応するのです。
同じように、梅雨の時期など湿度の高いときには、環境の湿気が「湿邪」となり、それに呼応するように、私たちの身体の中にも「内湿」が発生します。湿度が高い日に、身体が重だるく感じたり、むくんだり、あるいは頭が重いとか、痛いとか、あるいはめまいや立ちくらみがしたりしたことはありませんか。また、胃酸過多のような症状があって気持ち悪いとか、あるいは口が渇くとか。トイレに行く回数が減ったり、逆に増えたりといった症状もあるかもしれません。
漢方医学では、こうした症状を「水滞(すいたい)」とか「水毒(すいどく)」と呼び、身体の中の水が過剰になっているとか、どこか偏りができているなどと考え、その水を捌(は)いたり、偏在を解消したりという治療を行います。
西洋医学でいう「利尿薬」というわけではありませんが、もっと広い意味で体内の水のバランスを適正化する「利水剤」と呼ばれる生薬を使うのです。サルノコシカケ科のチョレイマイタケの菌核をつかう猪苓(チョレイ)や同じくマツホドの菌核である茯苓(ブクリョウ)などはその代表で、その他キク科オケラ属の植物の根茎を用いる朮(ジュツ)も利水剤として用いられます。
代表的な処方は、五苓散(ごれいさん)というもので、茯苓、猪苓、沢瀉(タクシャ)、朮、桂皮(ケイヒ)の5つの生薬で構成されています。ドラッグストアにもエキス製剤があります。湿気にやられたなと思うときには、薬剤師にご相談のうえ、お試しください。西洋医学にはない、漢方の力を体験できるのではないかと思います。
(2014年7月14日)