特設サイト第41回 漢方処方解説(16)加味帰脾湯
今回取り上げる漢方処方は、加味帰脾湯(かみきひとう)です。
構成生薬の数はかなり多く、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)、当帰(とうき)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、白朮(びゃくじゅつ)、黄耆(おうぎ)、遠志(おんじ)、木香(もっこう)、生姜(しょうきょう)、竜眼肉(りゅうがんにく)、酸棗仁(さんそうにん)の12種の生薬に、柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、牡丹皮(ぼたんぴ)の3種の生薬を加えたものとなっています。
最初に挙げた12種の生薬の組み合わせは帰脾湯(きひとう)と呼ばれ、もともと胃腸が弱く、精神的疲労が重なり、心身ともに疲労の極致に達して、血色も悪く、貧血気味で、精神不安や不眠などを伴う場合に用いるとされるものです。また、思い悩むことが多く、取り越し苦労ばかりしてしまうというような訴えも目標として用いられるところが漢方医学らしくて興味深いところです。
この帰脾湯と同じような症状や訴えに加え、いらいらやのぼせ、ほてり、胸苦しいなどの熱症状を伴う場合に加味帰脾湯がいいとされます。
処方内容を見ますと、人参、茯苓、白朮、甘草、つまりは四君子湯(しくんしとう)がベースとなっていることがわかります。消化管の働きを良くして、気虚(ききょ)というエネルギー不足を補おうとする生薬が主体であり、その上に血を補う当帰、鎮静作用のある遠志や酸棗仁、竜眼肉、止血作用もある黄耆などが配剤され、さらに熱症状の緩和に柴胡や山梔子が配合されています。
本処方のエキス製剤は、医療用では24番目の販売額を示し、ドラッグストアなどで購入できるOTC(※1)漢方エキス製剤では15番目とされますから、まずまず需要のある処方ではないでしょうか(出典:漢方薬繁用処方実態調査<横浜薬科大学和漢薬調査研究センター編>2013年発行)。不眠症や不安、いらいら、胸苦しさなどの神経症状に使いやすい処方である所以だと思います。
明代(1368年-1644年)の「内科摘要(ないかてきよう)」(16世紀)を出典とする処方ですが、いわゆるストレス疾患というものは人類の歴史とともにいつの時代にもあったことなのでしょうね。
(※1)英語の「Over The Counter」の略語。医師が処方する「医療用医薬品」ではなく、薬局やドラッグストアなどで買うことができる「要指導医薬品」と「一般用医薬品」のことです。
(2017.9.28)