特設サイト第53回 学生実習と漢方製剤(その2)
11月も終わりに近づき、ようやく冬到来という日々が続いています。
さて、今年も薬学部2年生の化学系応用実習にて、漢方製剤の紫雲膏(しうんこう)と中黄膏(ちゅうおうこう)を作っています。第19回でご紹介した頃には、紫雲膏だけを作っていたのですが、同じく江戸時代の医師?華岡青洲(はなおか?せいしゅう)が工夫したとされる軟膏をもう一つ作ってもいいのではと考えました。中黄膏は、青洲が「黄連膏(おうれんこう)」という軟膏を改良して作ったと言われ、江戸時代から伝わる処方です。
熱して水分をよく飛ばしたゴマ油に、軟膏の基剤となるミツロウを入れて加熱して溶かし、ガーゼでろ過して塵を除いた後、やや冷えた頃にウコン末とオウバク末を徐々に混合し、攪拌しながら凝固させると軟膏の完成です。
黄連膏の作製過程
ゴマ油とミツロウを加熱中
ウコン末とオウバク末を加える
攪拌しながら冷まし固めて完成
ウコン末
オウバク末
医史学の研究者によると、青洲は世界で初めて全身麻酔下における乳がんの外科手術を成功させたという業績のほか、数多くの膏薬処方を工夫し、後世に残したことでも評価されています。当時の外科においては、腫れものなどの化膿性疾患や外傷の治療に膏薬は欠かすことのできない薬物であったでしょうし、また術後の処置にも膏薬が使われていることからも、青洲の医学において膏薬処方は重要な位置を占めていたことがわかります(日本医史学雑誌(2013)より引用)。青洲が用いた膏薬を後世に伝えた資料は、すべて門人による口授本に基づくもので、青洲自身が残したものはないとされ、それらの資料は写本が中心であるなど、非常に貴重なものでした。
中黄膏は、熱性の皮膚疾患や化膿、うちみ、ねんざなどに用いられ、熱をとり、排膿を促し、痛みをやわらげ、出血を止め、うっ血を散らすといわれています。産婦の乳房炎にも使うことができ、うっ血性のものには消散を早め、細菌性のものでは開口を促進する効果があるとされます。
この軟膏をガーゼなどにとり、貼り薬として使いますが、ドラッグストアなどではパップ剤として販売されていますから、湿布薬の売り場で見かけたことがある方もいるのではないでしょうか。肩こりや腰痛にもよく効きますから、是非お試しを。
(2018年11月29日)