特設サイト第60回 漢方処方解説(26)呉茱萸湯
今回ご紹介する処方は、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)です。
2006年から漢方エキスが日本薬局方に順次収載されてきましたが、現在の第十七改正日本薬局方の第二追補にて収載される予定の処方であり、35番目となります。医療用漢方エキス製剤が148処方あり、また一般用漢方エキス製剤も含めますと、わが国では294処方の漢方薬が認められており、治療薬としての品目数は多く、日常診療においてまだまだ十分に活用されていないものがたくさんあります。
呉茱萸湯は、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)、人参(にんじん)、大棗(たいそう)の4つの生薬からなる処方です。 呉茱萸は、ミカン科のゴシュユの果実を用いる生薬で、インドールアルカロイドのエボジアミン(evodiamine)などを含有しています。漢方医学や中国伝統医学においては、臓を温め、痛みを取る薬効をもつものとされており、本処方の他にも冷え症やしもやけなどに応用される当帰四逆加呉茱萸生姜湯などに配合されています。生姜や人参、大棗は、この連載でもお馴染みの生薬ですよね?
さて、呉茱萸湯は、臨床においては片頭痛などの常習性頭痛によく用いられる処方ですが、胃液が逆流してくる呑酸やしゃっくりなどにも応用されます。古典的には、食中毒などで嘔吐が止まらないときに用いるとの記載が主であるのですが、今は片頭痛に用いることが多いと思います。
本コラムで取り上げた処方の中にも頭痛に用いる処方はいくつかあり、またそれぞれに特徴がありました。感冒やインフルエンザに罹ったときの頭痛には、葛根湯や麻黄湯が有用でしょうし、雨などの気圧の変化による頭痛には五苓散があります。また、起き抜けから午前中にかけて頭痛がし、中高年で血圧も高い場合であれば、釣藤散の適応といったように。
片頭痛は、発作性で波打つような激しい痛みが続くもので、トリプタン系の西洋医薬品が用いられるのですが、トリプタン系の薬剤は血管を収縮させる作用があり、ともすれば血圧上昇を引き起こしたり、血流を低下させたりといった好ましくない作用にも通じるところがあります。この呉茱萸湯は、そうしたトリプタン系の薬剤がなかなか効かない方でも有効である場合があり、またトリプタン系の薬剤の使用量を減らすこともできるのではないかという期待もあるなど、非常に興味深い作用をもっています。
余談ですが、呉茱萸にはヒゲナミン(higenamine)というアルカロイド化合物が入っています。これは中枢神経興奮作用をもち、世界アンチ?ドーピング機関(World Anti-Doping Agency,WADA)による禁止薬物に認定されていますから、スポーツ選手が使用するときには要注意です。
(2019年6月28日)