特設サイト第82回 漢方処方解説(42)半夏白朮天麻湯

今回、ご紹介する処方は半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)です。

この処方は、13世紀に李東垣(りとうえん)によって記された「脾胃論(ひいろん)」という医学書に収載されるもので、半夏(はんげ)、白朮(びゃくじゅつ)、陳皮(ちんぴ)、茯苓(ぶくりょう)、天麻(てんま)、黄耆(おうぎ)、人参(にんじん)、沢瀉(たくしゃ)、黄柏(おうばく)、生姜(しょうきょう)、乾姜(かんきょう)、麦芽(ばくが)から構成されている処方です。漢方メーカーによっては、蒼朮(そうじゅつ)も配合されたり、神麹(しんきく)という珍しい生薬が配合されたりするものもあります。

半夏(はんげ)

半夏(はんげ)

白朮(びゃくじゅつ)

白朮(びゃくじゅつ)

天麻(てんま)

天麻(てんま)

原典では、「普段から胃腸が弱く、ときどき煩躁して胸中がすっきりせず、便秘するような人が寒い中外出して戻った際に、寒さにあたって気分がすぐれず、また誤って下剤を用いてしまって、さらに嘔気、めまい、頭痛に見舞われて苦しんだときに、この処方で治った」というエピソードをもとに、胃腸虚弱で、四肢が冷え、めまいや頭痛がする場合に用いるとされています。めまいや頭痛を対象として処方されるものですが、元々、胃もたれや食欲不振、胃がぽちゃぽちゃするなどの胃腸虚弱があり、手足が冷え、水分代謝も悪い方のめまいや頭痛に有効というものです。

めまいや頭痛に漢方薬が応用されることは多く、このコラムでも話題となります。

冷えがあり、身体が揺れているような感じがする「めまい」には真武湯(しんぶとう)(第75回参照)が用いられ、また比較的急性の「めまい」で、回転性のものには苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(第58回参照)がよいとされます。また、若い女性で、冷えや月経痛、月経不順を伴う「めまい」に当帰芍薬散(第47回参照)が用いられることがあるのですが、この場合には胃腸虚弱がないとされます。頭痛であれば、低気圧などによるものにも有効な五苓散(ごれいさん)もありますし、高齢者の午前中の頭痛には釣藤散(ちょうとうさん)(第35回参照)が有効ですし、片頭痛や首筋が凝るような緊張性の頭痛には呉茱萸湯(ごしゅゆとう)(第60回参照)が用いられるなど、いろいろな処方がいろいろな場面で使い分けられます。

李東垣は、金の時代の高名な医家であり、「内外傷弁惑論(ないがいしょうべんわくろん)」も記し、治療に際しては五行論の土(ど)にあたる脾(ひ)を補うこと、つまり消化器系の機能向上を重視していたそうです。このコラムで以前にご紹介した補中益気湯(第22回参照)も李東垣が創出した処方ですが、本処方と同様、「補脾」に重点が置かれ、比較的多くの生薬が少量ずつ含まれているのが特徴だと言われています。

漢方の奥深さを感じる処方だとおもうのですが、いかがでしょう。

(2021年9月22日)

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