特設サイト第84回 八事キャンパスの薬用植物 ~2021秋~
東の空に、ほぼ皆既といわれた月食を楽しんだ日もありましたが、このところ夕方の西の空には、金星が目映いほどに輝き、さらに南の空にかけて金星と一直線に並ぶ土星や木星へと視線を伸ばすことが日々の癒しとなっています。
そんな折に、八事キャンパスで興味深い薬用資源(?)を見つけましたので、今回はそのご報告です。
薬学部の表玄関には、古くから枝ぶりの華やかな桜の木が数本ありますが、覚えていらっしゃいますでしょうか?
その中で、向かって右手の老木は年々花を咲かせる力を失い、ついに本年伐採されるに至ったようです。「~ようです」と言うのも、気がついたら切り株になっていた次第でありまして、なんとも言えない気分で見ていたら、なんと立派なサルノコシカケがあることに気づきました。
サルノコシカケ科の生薬としては、茯苓(ぶくりょう)や猪苓(ちょれい)、霊芝(れいし)があります。茯苓は、アカマツなどの根に寄生するマツホドの菌核で、外層をほとんど取り除いたものを用いますし、猪苓もチョレイマイタケの菌核で、ともに利水剤(りすいざい)として五苓散(ごれいさん)などに用いられます。霊芝は、マンネンタケの菌核を用いる生薬で、強壮?鎮静作用をもつとして、サプリメントとして利用されています。
菌類は、植物とは区別された独立した生物として扱われ、その含有成分も独特ですが、ステロールやトリテルペン、アルカロイドなども含むものの、多くは多糖体を含むことが知られています。キノコとして知られる子実体は有毒なものも多いのですが、シイタケやスエヒロタケ、カワラタケなどからは多糖とタンパク質の複合体などが取り出され、かつては抗腫瘍活性をもつ注射剤として上市されていましたが、がん治療の進歩や新たな薬剤の開発により、すべて販売中止となっています。生薬や薬用資源を活用した創薬や治療法開発の歴史の一幕として、非常に興味深い事例だと思います。
さて、桜の木にあった大きなサルノコシカケですが、いろいろと調べてみますと、この木を伐採することになった原因であることがわかりました。 サルノコシカケの多くは樹木を腐らせ、風倒や風折の原因となる害菌(木材腐朽菌)とのこと...。 見つけると、猿が腰かける、ほのぼのとした姿を想像してしまうのですが、実は菌が樹木を倒した証なのですね。
これは、オオミノコフキタケなのでしょうか?
(2021年12月2日)