特設サイト第105回 漢方処方解説(57)安中散

越婢加朮湯

今回ご紹介する処方は、安中散(あんちゅうさん)です。
新型コロナウイルス感染症が第5類に移行し、これまでの生活がある程度戻るとともに宴席も増え、胃腸の不具合を抱える方が増えているかもしれません。忘年会や新年会、また歓送迎会の季節になれば、テレビのコマーシャルで胃腸薬の名前をよく聞きます。ドラッグストアで販売される漢方エキス製剤の中で、おそらく最も古くから知られるものが、この安中散ではないでしょうか。

この処方は、中国宋代に出版された「太平恵民和剤局方」を出典としますが、現在わが国で用いられているのは浅田宗伯が記された「勿誤薬室方函口訣」によるものとされます。 構成生薬は、現在、桂皮(けいひ)、延胡索(えんごさく)、牡蛎(ぼれい)、茴香(ういきょう)、甘草(かんぞう)、縮砂(しゅくしゃ)、良姜(りょうきょう)の7種です。原点である「和剤局方」に収載されている安中散も7種の生薬が配合されていますが、縮砂の代わりに乾姜(かんきょう)が配合されており、構成生薬が少し異なっています。処方の変遷を調べた文献によると、江戸時代に活躍した漢方医の一人である原南陽(はらなんよう、1752-1820年)が原点である安中散に縮砂を加え、その後浅田宗伯が乾姜を除いて今の形になったとされています。

縮砂は、ショウガ科のAmomum xanthioidesまたはA. longiligulareの種子の塊を用いる生薬で、芳香性健胃作用や止瀉作用、制吐作用などの上部消化管への薬効をもつことが知られています。一方で、除外された乾姜もまたショウガ科のショウガの根茎を湯通し、あるいは蒸すなどの加熱処理をして乾燥させたもので、生姜のような発汗作用よりも消化管を温める作用をもつ生薬として使われるものです。

安中散は、主として急性?慢性胃炎やストレス性胃炎、神経性胃炎などに応用されており、消化性潰瘍や逆流性食道炎などにも用いられる。使用目標は、みぞおちの痛みや胸やけ、げっぷ、嘔気などが挙げられます。また、腹部は軟弱で、腹診によれば、大動脈拍動やみぞおちの振水音などを認めることが多いと言われます。体質的には、痩せているなど虚弱者対応であり、冷え症や疲れやすい方に有用であるとされています。どちらかと言えば、暴飲暴食の結果というよりも神経をつかった、ストレス性の症状によい処方だと言えます。

胃もたれや胃痛、食欲不振に用いる漢方薬は、この安中散のほか、平胃散や胃苓湯(安中散と五苓散の合方)、黄連湯や人参湯、六君子湯や半夏瀉心湯など数多くあります。それぞれに特徴がありますので、エキス製剤をお買い求めになるときもパッケージに記載されている症状をよく読み、薬剤師にご相談ください。

(2023年12月27日)

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