特設サイト第107回 漢方薬と副作用
今回は少し趣を変えて、副作用の話をまとめてみたいと思います。 漢方薬も医薬品ですから、使い方を間違えたり、過量を服用したりすると、副作用などの好ましくない作用がでます。一般の方々の間では、生薬や漢方薬は効き目が穏やかな反面、副作用などはなく、安全なものと理解されているかもしれませんが、なかなかそうはいきません。
オウゴン
1991年3月、小柴胡湯の添付文書に間質性肺炎の副作用が初めて記載され、1994年1月にはインターフェロンαとの併用が禁忌となりました。小柴胡湯による間質性肺炎の発生頻度は人口10万人に4人で、インターフェロンαによる発生頻度(182人)に比べるとかなり低い値ではありますが、漢方薬には副作用はないという「安全神話」は崩れることとなりました。この間質性肺炎の発生には、オウゴンが関わるのではと疑いをもたれていましたが、オウゴンを配合しない漢方エキス製剤においても間質性肺炎が認められたことから、今でも原因となる生薬や発生機序などは不明なままであり、その注意喚起は30種類以上の漢方エキス製剤でなされています。
その他、漢方薬の副作用として知られるものは配合される生薬によるものであり、それらは含有成分の作用から予測できるものと含有成分の関与は明確でなく、経験的に知られるものに大別されます。含有成分の作用から予測されるものの代表的なものに、カンゾウやマオウの例があります。
カンゾウ
カンゾウは、主成分であるグリチルリチンの代謝物が腎臓の遠位尿細管で糖質ステロイドホルモンであるコルチゾールの不活性化を阻害し、余剰となったコルチゾールが鉱質ステロイドホルモンの受容体に作用することで、ナトリウムや水分の再吸収、カリウムの排泄を促進し、結果として低カリウム血症となることが知られています。服用している間に、むくみやだるさなどを感じたときには薬剤師に相談してください。また、カンゾウは一般用や医療用の漢方エキス製剤の7割超に配合されていますので、例えば複数の漢方エキス製剤を服用することになった場合、構成生薬としてカンゾウが重複しているかどうか注意する必要があります。
マオウ
マオウは、ドラッグストアなどで販売されている総合感冒薬にも入っているエフェドリンやプソイドエフェドリンなどのアルカロイド化合物を含んでおり、これらが交感神経の興奮作用をもち、気管支拡張作用を示して咳止めとして働きます。しかしながら、この交感神経興奮作用が高齢者や循環器系疾患の既往歴のある方、重症高血圧や甲状腺機能亢進症の患者には慎重投与が必要で、ときに不眠や発汗過多、頻脈、動悸、精神興奮などの症状がでることがあります。中枢興奮作用をもちますから、ドーピングの禁止薬物にも指定されています。
サンシシ
ダイオウ
さらに、ダイオウでは瀉下成分であるアントラキノン類が母乳に移行しやすいため、授乳中の婦人では乳児までもが下痢する可能性があることが知られています。最近、サンシシのイリドイド化合物が腸間膜静脈硬化症という副作用を引き起こす可能性があることが報告されました。この発生には比較的長い時間がかかっていることもわかってきており、サンシシを含む漢方薬を長期間、例えば年単位で服用している方は腹痛(右側)や下痢などに注意することとされています。
ボタンピ
トウニン
さらに、漢方医学で特徴的な「駆瘀血作用」という血液循環を改善する生薬(トウニン、ボタンピなど)は、経験的に流早産の危険性をもつことが知られており、妊娠または妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましいとされています。
その他、普段から胃が弱い方が服用すると、胃の不快感や食欲不振を訴える場合などもあり、いろいろと注意を要することなどがあります。セルフメディケーションのために漢方薬を利用することは歓迎するものですが、くすりのしおりなどの添付文書やパッケージの注意事項をよく読み、適正に、かつ安全に使用していただきたいと思います。もし、わかりにくいことやご心配なことがあれば、ドラッグストアや薬局など、お近くの薬剤師に是非ご相談ください。
(2024年3月1日)