育て達人第043回 伊藤 康児
心の動きを科学的に考える魅力 コミュニケーション力磨き実践力を
人間学部長 伊藤 康児 教授(学習心理学)
心理、教育、社会、国際、コミュニケーションの5分野を柱に「人間性豊かな実践的教養人」の育成を掲げて2003年度に本学8番目の学部として誕生した人間学部。4月に4代目学部長に就任した伊藤康児教授に7年目を迎えた人間学部について語ってもらいました。
――心理学を勉強しようと思ったのはいつごろですか。
「コミュニケーション力を鍛えてほしい」と語る伊藤教授
高校3年生の夏です。図書館にあった心理学を紹介した本がきっかけでした。筑摩書房の「心理学のすすめ」(「学問のすすめ」というシリーズものです)にミュラー?リヤーという心理学者による錯視図形が紹介されていました。同じ長さの直線が、両端の<の向きや角度(<――> >――<)をシステマティックに変えることで違う長さに見えるという研究です。人の心の動きを科学的に、客観的に考えることができるということにとても魅力を感じました。担任のアドバイスもあって、心理学を学んで研究者になろうと思いました。
――人間学部で心理学を学ぼうという学生たちはどんな動機で入ってくるのでしょう。
時代が変わったなという気がします。オープンキャンパスに訪れる高校生たちと話をしても、高校生たちが心理学に関心を持つきっかけでは、血液型で性格がわかるとか、どんな性格の組み合わせなら恋愛がうまくいくとか、性格診断チャートが好きだったからといった動機が目立ちます。高校生たちに心理学についての知識が乏しいのもやむを得ない事情があります。西欧圏では高校までにサイコロジーを教えていますが、日本では一つの教科としては教えていません。大学では心理学は科学的にこころを探究する学問であることを理解できるよう配慮しながら授業を進めています。
――授業での反応はどうですか。
犯罪防止に役立てようと犯罪心理学に関心を寄せる学生もいますし、複雑化する社会では心理学のニーズは今後も高まっていくと思います。私は人間学部で「心理学概論」、全学共通科目で「心の科学」という心理学入門講座を担当していますが、いわゆる初年次教育です。心理学を学ぶことの面白さを知ってもらうのが狙いです。どうしても抽象的な内容になりがちなので、授業で取り組むべき課題を示し、3人1組のグループが協力して解決にあたる学習方法も取り入れています。グループ単位で知恵を出し合い、解決のヒントが浮かばない場合は誰か1人を別のグループに出向かせ、ヒントになりそうな材料を仕入れてくるという方法もとっています。
――2003年度に開設された人間学部は7年目。新しい学部ならではの試みとして附属高校との高大一貫教育も進められてきました。手応えはどうですか。
高大一貫教育は高校3年、大学4年の計7年間を、受験勉強にとらわれない教育で、現代をたくましく生きる基盤となる学力をつけてもらうのが狙いです。生徒たちは基礎学力の定着を基本に、英会話を重点的に学ぶとともに調査?発表などにも積極的に取り組んでいます。2、3年生たちは週1回、天白キャンパスで人間学部の学生たちと一緒に受ける授業もあります。しっかりした検証はこれからですが、7年間を通し、自分のテーマに合わせた勉強ができる魅力は十分あると思います。大学では英語の授業が物足りないという声もあり、カリキュラム上での改善も含め補強も行いました。
――人間学部の課題は何でしょう。
4月から学部長の仕事をバトンタッチしましたが、当面の課題は人間学部に接続する大学院の設計図作りを急ぐことです。学部の4年間、心理、教育、社会、国際、コミュニケーションの5分野を柱に学び、さらに大学院で深めたいという学生たちのために、どんな大学院を用意すべきか差し迫った課題です。卒業生の中には本学大学院の総合学術研究科や大学?学校づくり研究科に進んだ学生もいます。満7歳の人間学部は就職実績、志願者数の伸びから見ても、それなりの評価と実績が定着してきたと思います。学生たちの意欲に応えるためも、ぜひ、いい大学院を作りたいと思います。
――学生たちへのアドバイスをお願いします。
人間学部では人間に目を向ける姿勢を大事にしながら「実践的教養人の育成」を掲げています。実践的教養人とは、コミュニケーションを大切にし、相手に対して物おじせずに、しっかりと自分の考えを主張できる人間のことです。人間学部の学生に限らず、自分に自信を持って、自分を磨く学生生活を送ってほしいと思います。
伊藤 康児(いとう?こうじ)
名古屋市出身。名古屋大学教育学部卒、同大大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。1983年に大发体育官网_澳门游戏网站講師。助教授を経て教授。2009年4月から人間学部長。専門は学習心理学。大学院総合学術研究科では人間行動学特論を担当。著書に「学習の輪―アメリカの協同学習入門」(共訳、二瓶社)、「発達と学習の心理学」(共著、福村出版)など。56歳。