育て達人第138回 大﨑 孝徳
「街角の経営学」的視点でビジネスを分析
経営学部 経営学科 大﨑 孝徳 教授(マーケティング戦略)
「すごい差別化戦略」(日本実業出版社、2016年)などの近著のほか、「ビジネスジャーナル」というウェブサイトでは「何が正しいのやら?」というタイトルで「街角の経営学」的なコラムが連載されています。1980年ごろに一世を風靡した竹内宏さんの「路地裏の経済学」をほうふつさせます。身近にいる経営学者の視点や着想を掘り下げました。
近著の反響はどうですか。ネットとの違いがあれば、それも。
まあ、あまり反響はありませんが(笑)、出版後、かかわりのない大手食品メーカーさんからわざわざ書留で、丁寧な手紙と会社の資料を送付いただいたのはうれしかったですね。本はきっちり自らの意思でお金を払っている分、しっかり読んでいただいている印象です。一方、ネットは、スピード勝負、見出し勝負で目を走らせ、中身をじっくり読んでもらっているケースは少ないかもしれません。あと、批判的な見出しがウケるようで、サイトの運営スタッフが無理やり批判的なタイトルをつけるので、私個人の信用問題にかかわると危惧しています(笑)。
どんなケースですか。
例えば、学生の研究を紹介したコラムでは「なぜ女性はやたらと買い物が長い? なぜ金遣い荒く、いちいち意見求める?」というタイトルをつけられ、これじゃあ女性ファンが減っちゃうぞと。まあずいぶん慣れましたが。しかしながら、たとえば、アパホテルの価格戦略を扱ったコラムには「いいね!」が3700もつき、ではいったい読んだ人は何人だろうと、例えば100人に1人が「いいね」したなら、37万人ですよね。多くの人に情報を伝えるツールとして、やっぱりネットはすごいと実感しています。
ネットのメリット?デメリットは。
あと、自分のコラムを基に読者間で議論しているのがネット上で見えるのも有益です。また、面識のない堀江貴文さんが一言コメントしてくれていたのには驚きました。コラムに対して、たくさん批判的なことも書かれているのでしょうが、体に悪いので見ないようにしています。
「路地裏の経営学」的視点はどのように養われましたか。
論文でも本でもネットでも、何かを書くからには、意味のあることを書きたいと思っています。「意味のあること」の中身にはいろんなパターンがあると思いますが、少なくとも世間一般に言われていることと同じ、もしくは、なぞるようなことを自分がわざわざ書いても仕方がない。よって、一般に言われていることを「ふーん」と流さず、しっかり立ち止まって考える。そして自分なりに何かしら独自の見解が生まれれば書くということですかね。
情報収集はどのようにしていますか。
情報収集には人生をかけています。例えば通勤も自動車が楽なのですが、それでは社会のムードに触れられない。通勤客の様子、電車の中吊り広告、すべて勉強です。また、自分にはまったく興味のない商品の店でもなるべく立ち寄るようにしています。喫茶店でも経済紙から大衆誌、写真週刊誌まで必ず目通ししています。真面目な研究に関するインタビューなどは、断られること覚悟で、企業に直接電話する場合が多いです。断られることの方が断然多いわけですが、コツコツやっています。研究は頭でするものと思われがちですが、むげな扱いに屈しない、お金にはならない、発表したことに対して批判にさらされる。それでも自分は研究者の名に恥じぬように覚悟をもって取り組む。頭ではなく腹、つまり覚悟が何より大事だと思います。おそらく、研究に限らず、壺づくりや絵画制作や作詞作曲など、すべてのクリエイティブな作業では腹が極めて重要なのではないでしょうか。
印象に残っている現場は。
最近では、やはりアメリカ?ワシントン州にあるグーグルのオフィスですかね。どう表現していいか難しいのですが、日本人が一般に想像する職場や事務所とは全く違いました。コラムにも書きましたが、世界中の人が集まるヨーロッパのユースホステルの共同スペースのような。とにかく、スタッフ間のコミュニケーションの円滑さ、個人の柔軟な発想を促進する、そんな雰囲気に満ちあふれていました。
学生にどんなことを教えていますか。
一言で言えば、マーケティングです。その中身は、お客様に満足を与える全社的取り組みというところでしょうか。特に、近年は自分の研究テーマと関連し、プレミアム商品、高く売るには?に注力しています。コスト高の日本企業には重要なテーマであると考えています。さらに、大きくとらえると、マーケティングをネタに一生懸命に考える、物事に取り組むとはどういうことかを学生に体感してほしいと思っています。私のゼミの学生は時間割のゼミの授業の何倍もの時間をかけて研究に取り組んでいますが、なかなかいい結果に結びつかないことばかりです。けれども、こうしたことを通じて、社会に認められる結果を出すことの難しさ、自分の「たいしたことなさ」を実感することが何より大事で、こうしたスタートラインにさえ立てればあとは社会の荒波にもまれ、必ずやいい成果を残してくれると信じています。
学生に望むことは何ですか。時節柄、特に新入生にも。
多くの若者同様、世の中をなめきっていた私は大学入学前、大学や学問というものに何ら期待していませんでした。結果、当然ながら何ら努力することなく、得るものもあまりありませんでした。しかし年齢を重ね、もったいないことをしたと反省しています。ということを踏まえ、まず大学は勉強するところであるという当たり前のことを覚悟する。そして、一生懸命勉強する。それでもなお、大学時代には恐ろしいほど自由な時間があるわけで、クラブ活動やアルバイトなどにも、全力で取り組む。個人的には、とりわけゼミ活動には頑張ってほしいですね。全力でやって、自らのダメさを痛感してほしい。そうしたダメさを踏まえ、だからやっても仕方がないではなく、だからこそ自分にできることはすべてきっちり行わなければ話にならないという覚悟をもってほしい。こうした覚悟を持った学生なら、どの会社からも引っ張りだこ、就職後も必ずや素晴らしい仕事ができると確信しています。
今、抱いている夢をお聞かせください。
海外、とりわけ欧米の大学の教壇に立ちたいですね。そこから得たものを日本の学生にフィードバックしたい。こうした活動により、日本の国際化に貢献したい。
研究室で夢を語る大﨑教授
ゼミの指導をする大﨑教授
大﨑 孝徳(おおさき?たかのり)
1968年、大阪市生まれ。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了。博士(経済学)。民間企業勤務後、長崎総合科学大学助教授、ワシントン大学マイケルGフォスター?ビジネススクール客員研究員を経て、現職。主な著書?論文に「『高く売る』戦略」(同文舘出版、2014年)、『プレミアムの法則』(同文舘出版、2010年)、 “Global Marketing Strategy in the Digital Age: An Analysis of Japanese Mobile Phone,” The Marketing Review, vol.8 no.4, 329-341.等がある。コラム「なにが正しいのやら?」をインターネット上のニュースサイト『ビジネスジャーナル』(http://biz-journal.jp/series/oosaki-takanori-nanigatadashii/)に連載中。