育て達人第176回 田崎 豪
企業研究者から転身 テクノフェアで来場者の関心度No.1
理工学部電気電子工学科 田崎 豪准教授(自動運転、ロボット)
「企業と大学の出会いの場に」という趣旨で、本学は8月27日、天白キャンパスで、テクノフェア2019を初めて開催しました。本学の研究成果が100ブースに分かれて学際的に紹介され、企業関係者や卒業生、在学生ら約800人が来場しました。来場者アンケートで、興味があったとの回答を得たブースのトップは田崎豪准教授のロボット実演でした。
ロボットアームで商品をつかんで運ぶ実演が関心を集めました。手応えは。
テクノフェアで来場者に説明する田崎准教授
研究室では自動運転とロボットアームの研究をしていますが、アームの方が先にいい成果を出せたので、アームチームが出展しました。学部生4人と大学院生1人のチームです。ロボットは1人では作れないので、いろいろな人の協力が必要です。チームは準備を念入りに行い、企業の人たちの前でうまく要望に応えてくれました。チーム一丸となって努力したおかげで、現在は企業からの相談も来ており、手応えを感じているところです。
東芝の研究所勤めで得たことは。
メディアAIラボラトリーという部署で車の自動運転の研究をしていました。人が使ってうれしい商品を作りたくて、その実現を目指しました。企業では、期限までに何らかの成果を出すことが求められますが、その意識づけをされてきました。自分が開発に携わった製品がいくらで売れたと聞いた時はうれしく、製品がお客さまに届いたことが実感できました。
旭化成でリチウムイオン電池を開発した吉野彰大学院理工学研究科教授は、開発した製品の市場が立ち上がるまでの苦難を「ダーウィンの海」と例えています。
確かに、研究成果は出ているのに商品化につながらない期間がありました。コンセプトはいいのに、ロボット自体が大きくて使えなかったこともありました。ディスプレーが大きすぎると言われて、小さくしたら、今度は小さすぎて見えにくいと言われたことも。人がうれしいことにつなげるのは難しいと感じました。と同時に、自分の研究分野以外のことに目を配りながら研究開発をして折り合いをつけなければならないことを教わりました。
吉野教授が京都大学工学部の学生時代、専攻の勉強をする前はできるだけ専攻から遠い分野のことを学ぶ風潮があり、自分は考古学の発掘に打ち込んだと言っています。後輩になるわけですが、そんな学風はまだありましたか。
京大では、広く学ぶ風潮はありました。1、2年生のときに、ポケット六法も買いましたが、大学以外では開いたことはありませんでした。法律を勉強したことが、いつか役に立つとよいのですが。
2018年10月に開催された「ワールドロボットチャレンジ(WRC)」の「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」で、東芝との合同チームが総合優勝を果たしました。その後の展開は。
学生のロボットアーム操作を見守る
次は、理工学部メカトロニクス工学科の大原賢一教授と組んで名城チームで臨みます。前回は、商品に専用のマーカーを貼り付け、それをロボットが読み取って情報を認識しましたが、今度は、マーカーを貼らなくてもロボットが認識できるようにバージョンアップして勝負します。名城の力で優勝してきます。
大学ではどのようなことを教えていますか。
組み込みシステムとデジタル回路を教えています。コンピューターの作り方、ロボットの作り方の初歩の初歩です。昨年度は教え方も悪く、学生に不評だったので、2年目の本年度は改善しました。デジタル回路は授業満足度100%でした。
学生に繰り返し伝えていることは何ですか。
自分の研究成果を発表するとき、過小報告はもったいない。聞き手に伝わりやすく、10の成果を過不足なく報告すれば、聞き手との相乗効果で、成果は12にも15にも大きくなることがあります。聞き手のことを考え、成果をしっかり伝えられるように頑張ろうと言っています。
学生にメッセージをください。
最近日本の産業は元気がないと感じます。先生や上司から言われたことを言われるままに研究開発しているからではないか。そうではなく、先生を越え、日本の産業が盛り上がるような研究、人や社会にうれしいことをやってほしい。
受験生にもメッセージを発してください。
自分のやりたいことができる先生を見つけて入ってほしい。自分を伸ばしてくれる大学かどうか。オープンキャンパスなどで見極めてください。
ロボットの未来を語ってください。
労働力不足を補う役割は果たすでしょう。しかし、ただ、補うだけの存在ではなくなると思います。ロボットがたとえ決められたことしかやらなくても、子供や発想力豊かな人間はロボットが働く姿を見て、新しいアイデアに気づくこともあるでしょう。人間だけでは気づかなかったことが見えてきます。ロボットは人間に新たな気づきを与える存在になると思います。
コンピューターが人間の能力を超える技術的特異点「シンギュラリティー」は来ると思いますか。
囲碁や将棋でコンピューターが棋士を破るなど、ある分野では既に人間を超えています。しかし、車が人間より速く走れたり、飛行機が飛べたりするようなもので、シンギュラリティーはコンピューターと人間の優劣という問題ではないと思います。
好きな言葉を色紙に書いてください。
好きな言葉を色紙に書いた田崎准教授
「努力」です。学生時代、教授から「君の努力は無駄だった」とはっきり言われたことがあります。一方で准教授からは、報われるようにする方法を教えてもらいました。どちらも非常に良い経験で、努力は報われることを待つものではなく、「報わせるもの」という精神が芽生えました。大学教員としては、学生の努力を報わせたいですし、学生にも、努力は報わせるという精神や、報わせるための考え方を伝えていきたいです。
趣味や気分転換法を教えてください。
趣味は、小中高大のそれぞれの友達と飲みに行くことです。一緒に笑ったり、他の世界を教わったりします。日本酒党で、三重県の酒では「作(ざく)」がお気に入りです。天白キャンパスの体育館で毎週2回、筋トレをやります。精神が集中し、気分転換になります。
田崎 豪(たさき?つよし)
1981年生まれ、三重県朝日町育ち。2004年、京都大学工学部卒業。2006年、京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻修了。同年、株式会社東芝に入社し、ロボットや自動運転に関する研究に従事。2018年から現職。日本ロボット学会、電子情報通信学会に所属。