特設サイト第90回 漢方処方解説(45)小建中湯
すでに3年目に入った新型コロナウイルス感染症も、新たな変異株の感染性の高さからか、これまでにない新規感染者数の増加に見舞われており、なんとも不安な日々が続きます。
気温の高い中でのマスクは息苦しいものですが、手指消毒やワクチン接種とともに、自身を護る術としては必須のものとなっています。
さて、今回は久しぶりに処方解説をと思い、小建中湯(しょうけんちゅうとう)を取り上げます。
この処方は、虚弱体質の改善を期待して用いられることが多い処方で、腹部膨満感や腹痛に用いられる桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)に膠飴(こうい)を加えたものです。
桂枝加芍薬湯は、桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗からなる桂枝湯の芍薬を倍量にしたものです。桂枝湯は、虚弱者の風邪(感冒)初期に用いる処方で、悪寒や発熱、頭痛などの症状があり、自然発汗がある場合に用いるとされます。この処方の芍薬を増量すると、腹痛や下痢、残便感などの消化器症状に対応する処方に変わり、過敏性腸症候群の第一選択の漢方薬となります。芍薬一つで、感冒の薬からお腹の薬に変わってしまうのは、漢方薬の「処方の妙」と言われますが、その詳細は残念ながら不明です。
膠飴という生薬は、元々、もち米やうるち米、小麦粉に麦芽を加えて加工した飴糖であり、麦芽糖を主体としたものです。最近では、トウモロコシやキャッサバ、ジャガイモ、サツマイモもしくはイネのでんぷんを塩酸、シュウ酸、アミラーゼまたは麦芽汁などで糖化した後、乾燥して作られており、国産で賄える生薬としても知られています。臨床的には、強壮、鎮痛、健胃、緩和作用をもち、急迫症状に用いるとされます。
小建中湯
小建中湯は、胃腸虚弱で、やせ型の方に用いることが多く、腹痛を主とする場合と、疲労倦怠感、動悸、息切れなどを主とする場合があります。また、重労働や急性疾患で体力を消耗した場合に用いることもあると言われています。小学生が遠足や運動会ではしゃぎすぎて体力を消耗し、夜に発熱した場合などに一服すると朝には熱も下がると教えられた記憶があります。
本処方は、「建中湯」類の一つであり、構成生薬を少し変化させることで、黄耆建中湯や当帰建中湯などとすることができます。また、構成生薬はかなり違いますが、大建中湯とともに「中」=「お腹」を「建て直す」作用をもつ一連の処方群として有益なものです。
配合される生薬のわずかな違いで効能効果が変化することは、当然のような気もしますが、とても不思議なことでもありますよね。その詳細を解き明かしてみたいと常々思っています。
(2022年8月1日)