特設サイト第14回 漢方処方解説(4)防風通聖散
今回取り上げる漢方処方は、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)です。
ドラッグストアを中心とした一般薬局で、近年最も売れている漢方処方のひとつです。
「ナイシトール」とか、「コッコアポA」などという名前で出ておりますが、実はこの処方のことなのです。漢方薬という印象は薄いのではないでしょうか。
構成生薬は、他の処方に比べて多く、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、山梔子(さんしし)、連翹(れんぎょう)、薄荷(はっか)、生姜(しょうきょう)、荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)、麻黄(まおう)、大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)、白朮(びゃくじゅつ)、桔梗(ききょう)、黄芩(おうごん)、甘草(かんぞう)、石膏(せっこう)、滑石(かっせき)と18種類を数えます。
先述したナイシトールの製品情報には、「体に脂肪がつきすぎた、いわゆる脂肪太りで、特におなかに脂肪がたまりやすい方、便秘がちな方に適しています」とか、「脂肪の分解?燃焼を促し、肥満症の改善に効果があります」と書かれており、一般的には「メタボ改善薬」や「痩せ薬」のようなイメージが広がっているのではないでしょうか。
本処方は、そもそも中国北方を支配した金の時代(1115~1234年)の高名な医師の一人、劉完素(りゅう かんそ)が記した医学書「黄帝素問宣明論方(こうていそもんせんめいろん)」(1172年)に出てくる処方で、「辛温解表(しんおんかいひょう)、清熱解毒(せいねつげどく)、瀉下(しゃげ)、利水(りすい)」を目標に使うものです。
その意味は、体表に悪寒など寒気の存在があり、さらに体内にも熱や便秘があるような「表裏の実(ひょうりのじつ)」を汗や大便として体外に出すこと、また身体の水分代謝が停滞した状態を正常にするため尿などで排出する作用を持つということです。
日本漢方では、森道伯(もり どうはく)率いる一貫堂派が好んで用いた処方で、その用途として「臓毒(ぞうどく)」という考え方を提唱しました。簡単に言うと「臓器の毒」ということで、新陳代謝が悪くなり、身体の中に毒となって滞積したもの、さらにはその毒を溜めやすい体質を考えています。防風通聖散は、この「臓毒」を駆逐する処方として用いられるのです。
これらの考え方がどこかで都合よく解釈され、肥満に効く「痩せ薬」となったのでしょうか。気軽に服用すると、下痢することがあります。安易に使うことなかれですよ。
(2015.6.18)