特設サイト第54回 漢方処方解説(21)当帰四逆加呉茱萸生姜湯
今回取り上げる漢方処方は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。この処方もこの連載でもおなじみの「傷寒論(しょうかんろん)」を原典とし、当帰(とうき)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、木通(もくつう)、細辛(さいしん)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)の9種の生薬から構成されています。
当帰四逆湯だけでも効果はあるのですが、呉茱萸と生姜を加味し、冷え症やしもやけに応用されています。とくに、手足の冷えを感じやすい人で、足の冷えが強く、ときに足や下腹部が痛くなりやすい場合によいとして、女性に用いられることが多い処方です。
この処方は、いろいろな問題提起をしてくれた処方としても有名です。
ある女性が不妊治療にと、近医の指示で中国製の当帰四逆加呉茱萸生姜湯製剤を5か月ほど服用したところ、腎障害を発症し、腎不全へと進行して人工透析にまで至ったという症例がありました。原因は、この中国製の医薬品に含まれる構成生薬の「関木通(かんもくつう)」の成分であるアリストリキア酸による腎毒性であったということが判明しましたが、この事案には2つの問題点があります。
アケビ
ウマノスズクサ(関木通はウマノスズクサ科の植物)
1つは、日本で用いられる「木通」、いわゆるアケビのつるの代わりに、中国ではまったく異なる植物であるウマノスズクサ科の「関木通」を「木通」として使っているということで、腎毒性など健康被害をもたらす化合物を含有していました。日本では認められていない生薬がこの中国製医薬品には使われており、日中で異なる薬用植物が生薬として用いられることがあるということです。
そして、もう1つの問題は、中国製のこの医薬品を「漢方薬」として入手したことです。すでに、みなさんはお気づきのことと思いますが、「漢方」は中国伝来の伝統医学であるものの、わが国において独自に発展を遂げた医学、すなわち日本固有の医学であると認知されています。ですから、その薬物である「漢方薬」も日本特有のものであり、漢方医学で用いるからこそ「漢方薬」なのです。中国で製品化されたものは「中製薬」と呼び、漢方薬とは区別されなければなりません。つまり、「中国製漢方薬」とか「中国土産の漢方薬」や「中国ハーブの漢方薬」などというものは存在しないのです(「リアル?アメリカン?イングリッシュ?マフィン」というよりも性質が悪いのです)。
このような用語の混乱は、マスコミをはじめ、官公庁でも未だに修正されておりません。中国の狙う伝統医学の国際標準化に目くじらを立てる前に、自らの認識を正しいものとしなければなりません。
(2018年12月25日)