特設サイト第6回 日本の伝統医学
すでに、皆さんご存知のお話かもしれません。「漢方」とは、日本の伝統医学のことだと。
前にもお話したように、「漢方」という言葉自体、江戸時代に入ってきた西洋医学(いわゆるオランダ医学)を「蘭方」と称したのに対し、それまで行われてきた医学を「漢方」と呼び習わしたのが始まりです。ですから、中国には「漢方」という言葉はありません。中国の伝統医学は、「中医学」と呼ばれます。とはいえ、「漢」という字は「中国」を意味しますし、「方」は「方術」、つまり「医術」を意味しますから、さしずめ「中国伝来の医学」という意味になります。
長い年月をかけ、日本独自の診断法や漢方薬の使い方を編み出し、本家とは少し趣の異なる特長もあります。お腹の手術後の腸閉塞や緩和医療の副作用としての便秘に、「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を使おうとするのは、この日本独自の姿の一つではないかと思います(拍手)。
さて、その大建中湯ですが...。
山椒(さんしょう)、乾姜(かんきょう)、人参(にんじん)、膠飴(こうい)の4つの生薬から構成されています。山椒は、鰻を食べるときに使う香辛料として馴染みがありますし、乾姜はひね生姜を蒸してから乾燥させたもの、人参はいわゆる高麗人参で、最後の膠飴はうるち米に麦芽を作用させて作った麦芽糖のことです。
人参も含め、食品と言っても差し支えのないものばかりですが、最近ものすごくよく使われています。元々、お腹が冷えて、腹満し、痛み、ときに嘔吐を伴うなど、腸の蠕動運動の不調を治す処方として知られていましたが、消化器外科領域で術後のイレウス(腸閉塞)に使ったところ、とてもよく効くことがわかり、いろいろと研究されてきました。
最近では、米国の「メイヨー?クリニック」(※1)でも注目される薬剤となり、「大建中湯により腸の運動が亢進するか」という二重盲検試験(※2)をクリアして有効性を示し、今では米国食品医薬品局(FDA)(※3)での第III相試験(※4)へと進んでいます。2016年には(株)ツムラが術後イレウス治療薬としてFDAに申請するであろうというニュースも流れ、漢方の国際化が大きな話題にもなりました。
西洋医学にはない、興味あふれる効果はまだまだたくさんあります。
一つずつ丁寧に研究を重ね、データを蓄積?報告していくことで、患者さんの健康の回復に貢献していきたいものです。
(※1)米国のミネソタ州にある総合病院。常に全米で最も優れた病院に挙げられており、世界中から高く評価される医療研究および治療センターでもあります。
(※2)被検者を2つのグループに分け、一方のグループには試験薬を、他方のグループには外見や味が同じで薬効と無関係な偽薬を与え、どちらのグループにどの薬を与えたかを、医師にも被検者にもわからないようにして行う臨床試験。
(※3)米国の政府機関で、食品?薬品を中心に、化粧品、医療機器、動物薬、玩具など、消費者が接する機会の多い製品の認可や違反取締を行っています。
(※4)ヒトを対象として薬の有効性と安全性を調べる臨床試験の最終段階。有効性と安全性を調べるため、実際に病院などで使用されたときの効き目、副作用などを、多くの患者によって確認します。
(2014年10月30日)