特設サイト第7回 漢方処方解説(2)麦門冬湯
11月に入っても暖かな日が続いていましたが、先週後半からの急な冷え込みで体調を崩された方も多いと思います。キャンパスでも、にわかにマスク姿の学生や教職員の割合が増えたように思います。
前々回、漢方処方解説として、代表的な風邪薬とも言える「葛根湯(かっこんとう)」を紹介しましたが、今回は「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」という処方を紹介します。
主薬である麦門冬(ばくもんどう)は、ユリ科ジャノヒゲの根の膨大部を使います(写真1を参照ください。根のところどころ膨れている白い部分が薬用部位です)。 比較的長い葉を持つものをリュウノヒゲ、短いものをジャノヒゲと呼び、庭先や公園によく見かけるタマリュウもこの仲間です。観賞用のヤブランもこの仲間ですから、身近な植物の一つだと思いますが、まさか薬用植物だとは気づいてないのではないでしょうか。
この麦門冬に、半夏(はんげ)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、粳米(こうべい)を加えて作るのが麦門冬湯で(写真2に構成生薬を示します)、現代医学的には痰の切れにくい咳や気管支炎、気管支喘息に用いるとされています。
もともと、麦門冬には潤す作用があり、乾燥して気の上逆(※1)するのを潤して引き下げる薬効があります。一口に咳を鎮めるといっても、腹の底からこみあげるような、そのため顔が真っ赤になってしまうような力のこもった咳によいとされ、痰はあっても濃いものに用いるなどという使い分けがされます。
処方構成としては、半夏が気の上衝(※2)を引き下げ、人参が麦門冬を助けて乾燥を「潤す」とともに半夏がもつ「乾かす作用」を緩和します。また、甘草は急迫を緩め、気を通し、大棗は胸部を潤し、気の上逆を緩和するという働きをします。さらに加えられている粳米は、胃を滋潤し、虚労(きょろう)という一種の消耗状態を補うものとされますが、この粳米を加えることで生まれるとろみがのどをさらに潤すような気がします。
(※1、2)「気」とは、漢方医学で考える概念のひとつで、生命体としての私たちを支えるエネルギーのことです。通常、この「気」というエネルギーは私たちの身体の上から下へと流れているものですが、その流れが滞ったり、逆転したりすると不具合を生じます。気の上衝や上逆は、気が上へと昇ったり、逆流したりという状態を示す漢方医学的な病因を示す用語で、のぼせや頭痛、げっぷや動悸、さらには不安や焦燥感などの症状として現れると考えています。
(2014年11月20日)